新庄内科クリニック

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新庄内科だより

新庄内科だより(平成27年2月号)

一酸化窒素(NO)と喘息

目次

呼気中の一酸化窒素(NO)の源
呼気中NOは喘息に対する抗炎症治療の反応指標
喘息の診療で呼気中NOをどのように活用すべきか
呼気NO(FENO)を指標に喘息管理を行うと吸入ステロイドが少なくて済む?
気NO(FENO)を指標に妊娠中の喘息患者の管理を行うと増悪が減り、吸入ステロイドが少なくて済む?
慢性咳嗽(セキ)で受診した患者に対する呼気NO(FENO)検査は診断に有用か?

 呼気中の一酸化窒素(NO)の源


呼気に含まれる一酸化窒素(NO)は下気道から生じ、複数のNO合成酵素(NOS)により産生されます。NOSはアミノ酸のアルギニンからシトルリンとNOを合成する代謝反応に関与しています(図1)。

図1
図1
 

NO合成酵素(NOS)は常時細胞内に一定量存在する構成型NOS(constitutive NOS,cNOS)と炎症やストレスにより誘導される誘導型NOS(inducible NOS,iNOS,NOS2)に分類されます。構成型NOS(cNOS)には神経型NOS(nNOS,NOS1)と血管内皮型NOS(eNOS,NOS3)が存在します。NOの産生量は構成型NOS(cNOS)ではピコモル(10-12M)オーダー、誘導型NOS(iNOS)ではナノモル(10-9M)オーダーであり、iNOSによるNOの産生はcNOSのそれの約千倍の計算になります(表1)。

表1
各NO合成酵素(NOS)の特徴
名称 NO産生量 発現 機能
構成型NOS
(cNOS)
神経型NOS
(nNOS,NOS1)
10-12M ・神経組織
・肺
・腎臓など
細胞間情報伝達
  内皮型NOS
(eNOS,NOS3)
  ・血管内皮
・骨髄細胞
・血小板など
血管拡張作用
誘導型NOS(iNOS,NOS2) 10-9M ・免疫系
・心血管系
・肺など
病原体に対する
生体防御

 

構成型NOS(cNOS)はステロイド抵抗性でカルシウム-カルモジュリン依存性に発現し、少量(10-12M)のNOを間欠的に産生することで、生理的役割を担っています。喘息患者の気道ではcNOS発現の上昇が報告されています。図2はステロイド依存性喘息患者から採取した気管支粘膜組織ですが、上皮細胞にNOS1が高度に発現しています。

図2
図2
 

誘導型NOS(iNOS,NOS2)は炎症性刺激に反応して種々の細胞(気道上皮細胞、血管内皮細胞、炎症細胞など)に発現します。iNOS(NOS2)の発現はステロイド依存性で、10-9MオーダーのNOを持続的に産生します。NOS2は未治療の喘息患者で高発現しており、吸入ステロイド治療でその発現が低下します。

 呼気中NOは喘息に対する抗炎症治療の反応指標


喘息患者で上昇している呼気中NO(FENO)は吸入ステロイドやロイコトリエン拮抗薬などの抗炎症治療に反応して急速に低下します(図3)。しかし、気管支拡張薬では低下しません。したがって、FENOが高値である喘息患者はステロイドに反応しやすいことになります。

図3
図3
 
 喘息の診療で呼気中NOをどのように活用すべきか


喘息患者が外来受診するごとに呼気NO(FENO)測定を呼吸機能検査(スパイロメトリー)と併せて実施することが理想です。このことで安定期のFENOの基準値を知ることができます。新患でFENOの値が高ければ、吸入ステロイドなどの抗炎症治療で喘息症状の改善が期待でき、それに伴いFENOの低下が予想されます。治療に対するFENO値の低下が不十分であれば、原因として治療内容が不十分であるか患者の服薬アドヒアランスが不良なことが考えられます。FENO測定の利点と欠点を表2に示します。

表2
利点 欠点
・非侵襲的
・再現性がある
・迅速に測定結果が得られる
・未治療であれば気道炎症(AI)や気道過敏性(BHR)と良い相関を認める
・喘息診断に有用である
・抗炎症治療に反応して急速に低下する、治療反応性を予測できる
・増悪時に上昇する
・潜在性のAIで高値を示す
・服薬コンプライアンスをモニターするのに適している
・検査が普及していない
・未就学児では検査がむずかしい
・呼吸機能やステロイド治療後のBHRとの相関が不良である
・喘息での炎症反応の側面しかみれない
・喘息重症度との相関を認めない
・値はアトピーや遺伝子多型などの影響をうける
・吸入ステロイドを開始すると急速に低下し早期にプラトーに達する


FENOが基準値より20%以上増加した場合、喘息の(将来的な)増悪や服薬コンプライアンス(アドヒアランス)の不良を考えなければなりません。症状の悪化にも関わらずFENOが基準値で安定しており呼吸機能も変わりがなければ、喘息以外の病気の鑑別が必要です。

 呼気NO(FENO)を指標に喘息管理を行うと吸入ステロイドが少なくて済む?


吸入ステロイドはステロイド薬の内服に比べて使用量が少ないため、糖尿病・骨粗鬆症・白内障などの全身性の副作用をそれほど気に懸ける必要はありません。しかし、吸入ステロイドであってもできるだけ低用量の吸入ステロイドで喘息を良好にコントロールできれば、それに越したことはありません。

2005年に掲載された論文(Smith AD et al. N Engl J Med 2005; 352: 2163-2173.)によれば、FENOを指標に喘息治療を行った場合、従来のガイドラインに基づいた場合よりもより少量の吸入ステロイドで良好なコントロールを得られたと報告しています(図4)。

図4
図4
 
 呼気NO(FENO)を指標に妊娠中の喘息患者の管理を行うと増悪が減り、吸入ステロイドが少なくて済む?


妊娠中の喘息では、悪化、改善、不変がそれぞれ約1/3ずつであることがよく知られています。妊婦は胎児の催奇形性・発育・出産に対する影響を心配するあまり、薬剤の使用に対して非常に神経質になることは無理もありませんが、喘息発作が胎児および妊婦に及ぼす危険性を考えれば、妊娠中であっても治療を継続するほうが、有益性が高いことは明らかです。

2011年に掲載された論文(Powell H et al. Lancet 2011; 378: 983-990.)によれば、FENOを指標に妊婦の喘息治療を行った場合、症状に基づいて治療した場合よりも増悪の頻度を低下させ、より少量の吸入ステロイドで良好なコントロールが可能であったと報告しています(図5)。

図5
図5
 

さらに、FENOを指標に妊婦の喘息治療を行った場合、出生時体重はより重く、早産はより少なく、新生児入院はより少ない良好な結果が得られました。

 慢性咳嗽(セキ)で受診した患者に対する呼気NO(FENO)検査は診断に有用か?


慢性に持続するセキを診断して適切に治療することは、一般に考えられているほど容易ではありません。慢性に持続するセキの原因としては咳喘息・かぜ症候群後咳嗽・アトピー咳嗽・胃食道逆流症・慢性気管支炎・薬剤(一部の降圧薬)など、多くの病気があります。

厳密な「慢性咳嗽」はセキが8週間以上持続することと定義していますが、「慢性咳嗽」の原因として一番多い病気が咳喘息です。

1999年に呼気NO検査が慢性咳嗽の原因診断に有用であるか検討した論文が掲載されました(Chatkin JM et al. Am J Respir Crit Care Med 1999; 159: 1810-1813.)。図6にその結果の一部を示しますが、「正常群」(C)・「喘息以外の慢性咳嗽群」(NA)では呼気NO(この図ではENO)は低値ですが、「咳を主訴とする喘息群(咳喘息群)」(A)は「咳ではなくて喘鳴・呼吸困難を主訴とする喘息群(典型的な喘息群)」(WA)と同程度に呼気NOが高値を示しています。

図6
図6
 

以上の結果は、非喫煙者(喫煙者では原因疾患にかかわらず呼気NOは低値)で慢性に持続するセキが主訴の患者さんの診断に呼気NO検査が有用であることを示しています。